三菱商事など4社がDACの米新興に出資したとの報道を受けて、業界の全容をまとめてみた。
直接空気回収(DAC)の技術:歴史、現状、課題、主要プレイヤー比較
1. DACの歴史
直接空気回収(Direct Air Capture, DAC)は、大気中のCO₂を直接回収する革新的な技術であり、気候変動への対応策として注目されています。
- 2000年代初頭
DACのコンセプトが科学界で議論され、気候工学の一部として注目を集め始めました。 - 2009年~2010年代
初期のスタートアップ企業が設立され、技術開発が本格化。小規模プラントで実証実験が行われました。 - 2020年代以降
各国が「ネットゼロ」目標を掲げる中で、DAC技術が商業規模へと拡大し、大規模プロジェクトが次々と進行中です。
2. 現状
DACは急成長している分野であり、以下のポイントが挙げられます:
- 市場規模
2021年には約14.37キロトンのCO₂を回収しており、2050年には年間9億4,000万トンに達すると予測されています。 - 技術進展
各企業が異なるアプローチでCO₂の回収に取り組んでおり、効率性やコスト面での改善が進んでいます。 - 主要プレイヤー
世界各地で事業を展開する企業が技術競争を繰り広げています。
3. 主要プレイヤーとの比較
エアルーム・カーボン・テクノロジーズとDACの主要プレイヤーとして、カーボン・エンジニアリング、クライムワークス、グローバル・サーモスタットの4社を比較します。
項目 | エアルーム・カーボン・テクノロジーズ | カーボン・エンジニアリング | クライムワークス | グローバル・サーモスタット |
---|---|---|---|---|
創業年 | 2020年 | 2009年 | 2009年 | 2010年 |
所在地 | アメリカ・カリフォルニア州 | カナダ・ブリティッシュコロンビア州 | スイス・チューリッヒ | アメリカ・ニューヨーク州 |
従業員数 | 非公開 | 非公開 | 約300名 | 非公開 |
技術の基本原理 | 鉱物を利用したCO₂吸収 | 液体吸収剤を利用 | 固体吸着剤を利用 | 固体吸着剤を利用 |
CO₂除去コスト目標 | 1トンあたり約50ドルを目指す | 商業規模で削減を目指す | コスト削減の詳細は非公開 | 商業規模で削減を目指す |
主要プロジェクト例 | 米国初の商業用DACプラント稼働開始 | テキサス州で大規模施設計画中 | アイスランドのOrcaプラント運営 | 投資拡大中 |
年間CO₂除去能力 | 開発中 | 数百万トンを目指す | 現在最大3万6,000トン | 数十万トン目標 |
特筆すべき投資や提携 | 大手投資ファンドからの支援を受ける | 石油・ガス企業からの投資 | 欧州での商業展開を進める | 東京ガスなどとの提携 |
主な用途 | 炭素除去 | CO₂再利用・除去 | 炭素除去 | 炭素除去 |
4. 課題
DAC技術は将来性が高い一方で、以下の課題があります:
- コストの高さ
CO₂回収には1トンあたり数百ドルのコストがかかり、さらなる低価格化が必要です。 - エネルギー消費量
DACプロセスには膨大なエネルギーが必要で、再生可能エネルギーの利用が不可欠です。 - 貯留と利用の課題
回収したCO₂の貯留場所や再利用方法が十分に整備されていません。 - 規模拡大の課題
ネットゼロを達成するには年間数十億トンのCO₂除去が必要であり、大規模展開が急務です。 - 社会的認知と政策支援
DACの認知度が低く、政府による補助金や炭素価格政策が重要です。
5. 今後の展望
DAC技術の未来には次のような可能性が期待されています:
- 技術革新
効率的なプロセスや新材料の開発により、コスト削減が進むでしょう。 - 政策支援と規模拡大
政府の支援や企業間の連携を通じて、より多くのプラントが設立されると考えられます。 - グローバルなインフラ整備
CO₂貯留施設や輸送ネットワークが構築され、DAC技術が気候目標達成の重要な柱になるでしょう。
結論として、DACは現在の気候危機を解決するための有力なツールであり、引き続き投資と技術革新が求められる分野です。
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