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第4回電力システム改革の検証を踏まえた制度設計ワーキンググループ


出典:https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/jisedai_kiban/system_design_wg/004.html

1️⃣ 背景:なぜ今「制度設計」を見直すのか

日本の電力制度は、この10年で大きく変わりました。
発電・送配電・小売を分離し、自由化を進める「電力システム改革」は、2016年の全面自由化を経て、新しい電力市場の形をつくってきました。

しかし、制度が整っても、現実が追いついていないのが今の日本の姿です。

  • 太陽光や風力の導入量は増えたが、**系統制約(送電線の限界)**で出力抑制が頻発
  • 天候による発電変動が大きく、需給逼迫や電気料金高騰が常態化
  • 脱炭素化が進む一方で、火力投資が減少し、安定供給リスクが増大
  • 新規小売事業者が乱立・淘汰し、電源確保の責任範囲が曖昧

こうした状況を踏まえ、経済産業省・資源エネルギー庁は2024年度から
「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計ワーキンググループ」
(以下、制度設計WG)を設置しました。

制度を“リセット”するのではなく、これまでの改革を検証し、その延長線上で「次の10年」に耐えうる制度を再設計するのが目的です。


2️⃣ 経緯:制度設計WGとは?どんな議論をしているのか

このワーキンググループは、学識者・事業者・金融機関・自治体関係者などから構成され、
電力システム改革の「第4フェーズ」として議論を重ねています。

テーマは大きく3つに整理されています。

  1. 電力ネットワーク(系統)の次世代化
  2. 小売電気事業者の供給力確保義務・中長期市場の整備
  3. 電源投資を取り巻く現状と課題

そして、2025年8月8日に開催された第4回会合は、これらの論点がより実務的・制度的に掘り下げられた重要な回となりました。
(議事録・資料:経産省公式サイト


3️⃣ 第4回会合の焦点:3つのテーマを読み解く

(1) 系統の次世代化 ─ 電気を“つなぐ力”をどう増やすか

再エネをもっと入れようと思っても、送電線が足りない
これが日本の再エネ最大のボトルネックです。

今回の議論では、次のような論点が整理されました。

  • 地域間連系線・幹線送電網の強化と投資のあり方
  • 系統拡張に伴うコスト負担ルール(誰が払うのか)
  • 大口需要家(特にデータセンターなど)の系統接続優先順位
  • 「適地誘導」──系統余裕のある地域への電源立地促進策

単に“線を増やす”だけではなく、どこに・どんな順番で・誰の負担で整備するかという「制度設計のルール作り」が焦点となっています。

特にデータセンターの立地が電力網の負荷を変えていることから、
「先着順」から「計画的配分」へと考え方がシフトしつつあります。


(2) 供給力確保義務と中長期市場 ─ 小売事業者も“責任”を持つ時代へ

次の論点は、電力小売事業者に供給力確保の責任をどこまで求めるか。

これまで多くの新電力(新規小売事業者)は、電力を市場から調達し、販売していました。
しかし、燃料価格高騰や市場急変で破綻・撤退する事業者も増えています。

そのため、制度設計WGでは「一定の供給力を確保する義務を課すべきではないか」という議論が進んでいます。

あわせて、中長期の電力取引市場を整備し、将来の需給・価格変動を緩和しようという提案も検討されています。
長期契約が増えれば、発電投資の安定化にもつながるという狙いです。

ただし、義務を重くしすぎれば、小売の自由度を奪うことになりかねません。
「安定供給」と「競争の健全性」をどう両立するか──これが最大の難題です。


(3) 電源投資の現場の声 ─ 金融機関と発電事業者の“温度差”

第4回会合では、発電事業者・金融機関からのヒアリングも行われました。

  • 新規投資の採算が立ちにくく、資金調達が難航している
  • 政策変更が多く、事業計画の予見可能性が乏しい
  • 再エネ以外の脱炭素電源(CCUS付き火力、水素混焼など)はコスト・技術リスクが高い

つまり、「制度の安定性」こそが最大の投資条件であるという指摘が多く出ています。
政府がいくら補助金を出しても、制度が揺らげば投資は止まる──これが実務のリアルです。


4️⃣ 今後の方向性:制度はどこへ向かうのか

第4回の議論から読み取れる方向性を整理すると、次のようになります。

論点方向性の仮説
系統整備段階的・計画的な拡張へ。適地誘導を制度化
コスト負担託送料金制度の見直しで公平性を再検討
供給力確保義務化の範囲を限定し、段階導入の可能性
中長期市場先物・長期契約市場の整備を強化
投資安定化政策・制度の予見可能性を高める仕組みを設計

特に注目すべきは、「予見可能性(predictability)」というキーワード。
これは、再エネだけでなく、すべての電源投資の基盤になる考え方です。


5️⃣ 制度改革のリスクと課題

制度をつくる側の理想と、現場の実務の間には、しばしば“ズレ”があります。

  • 制度が複雑になりすぎる
  • コスト負担の不公平が生じる
  • 制度変更が頻繁で信用が揺らぐ
  • 技術革新(蓄電池・VPP等)に制度が追いつかない

この「ズレ」をどう埋めるかが、次期改革の成否を決めるポイントです。
電力制度は“線一本”でも社会全体の設計に関わる──だからこそ、丁寧な制度設計が求められています。


6️⃣ 筆者の視点:この議論が示す未来

私がこの第4回会合から感じた最大の示唆は、
「制度の再構築は、“再エネを増やすため”だけではない」という点です。

むしろ、

  • 電力をどう安定的に動かすか(ネットワーク設計)
  • 誰がどの責任を負うのか(小売・発電・需要家の役割)
  • どのように未来投資を誘導するのか(長期市場・金融制度)

──こうした“制度の骨格”を整えない限り、再エネも脱炭素も進まないという現実を突きつけています。

制度はインフラの“OS”です。
OSが不安定では、どんな新しいアプリ(再エネ技術や事業モデル)も動かない。
だから今、この議論はとても大切なのです。


📝 結び:「制度」は“地味”だが、未来を変える

派手なニュースではありませんが、制度設計の議論こそ、
10年後の日本の電力システムを左右します。

第4回ワーキンググループでの議論は、

  • 系統拡張という“ハードの未来”
  • 供給力確保・市場整備という“制度の未来”
  • 投資環境という“経済の未来”
    ──これらを同時に動かそうとする壮大な挑戦です。

静かな会議室の中で、実は「日本の電気の未来」が決まっていく。
制度を理解することは、私たち自身の暮らしと選択を理解することでもあります。

次回会合では、さらに具体的な制度案が示される予定。
注目して追っていきたいと思います。


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